「この間、アベさんと一緒に、駅の向こうに新しくできたカレー屋さんに行ったんですけど、行ったことありますか?」
「いいえ、ありません。それはどこですか」
「プネウマカレーっていう小さな店です」
「知らないなぁ、どこにできたの?」
「あの、早稲田通りを大学の方に行って、右側の、コットンクラブの手前の路地を右に入ったところです」
「なんだ、私が通っていた鍼灸学校の手前じゃないの。
で、美味しいの?」
「うーん、なんか、フツーなんですよ」
「なにフツーって。フツーのカレーってどういうの」
「うわあ、なんて言うんだろう。チキンカレー単品だけなんですけど、
もうちょっとなんかあっても良さそうなんですよ。
フツー、です」
「もしかしたら、あなたにとってのカレーとは、家庭で作るハウスバーモントカレーのようなものであって、それ以外のインドカレーとか欧風カレーとか、洋食屋カレーとか、蕎麦屋のカレーとか、を食べたことないんじゃないの?」
「いやいや、そんなことないんですけどね、なんかなー」
って要領を得ないので、プネウマカレーを食べに行ってきました。
これは、全然フツーじゃないです。
見事なチキンカレー。
しかも普通盛りが550円。
このレベルのカレーを1000円近い金額で出す店がたくさんあるのに、
この値段。
40代くらいのおにーさんが一人で切り盛りしています。
エプロンには「伊吹アンチョビ」って書いてある。
伊吹アンチョビがこのカレーの秘訣らしい。
なるほど。
インド風のカレーを作って見るとわかるのですが、
玉ねぎとチキンとスパイス、それにトマトなりスープなりを加えて作ると、
「何か一味」足りないんですよ。
ヨーグルトとか塩とか、醤油とか加えて見るんだけど、「旨味」が足りない。
でも、一味足りないままのカレーを出している店はたくさんあります。
新宿御苑前の店とか、神保町の古いビルの店とか、昔三越前の蔦の絡まる二階建てで営業していた店とか。
一味足りないままでも成り立つのは、「辛さ」を出すからです。
辛いと一味足りないのに気がつかれないで済むんですよ。
辛さゼロで食べて見ると何か味が足りないのがよくわかる。
あるいは、辛さの代わりに油をたくさん使って、油まみれにする。
このプネウマカレーはそうではなく、正面から「足りない一味」にチャレンジした。
その答えが、伊吹アンチョビなんだと思います。
プネウマカレー、辛くないです。でもちゃんと旨味がある。
ここにたどり着くまで、相当試行錯誤したはずです。
だって、カレーにアンチョビと言う回答は、他にはないですから。
そして、もう一つ、素晴らしいのは、後味がいいこと。
カレーの良し悪しは、店を出て30メートル歩いた後にわかります。
カレー店のカレーのほぼ90%は、食べた後に自分のエネルギーが落ちています。
例えば、胃がもたれるとか、胸焼けするとか、体が重いとか。
でもこのプネウマカレー、後味スッキリです。
体が軽い。
これなら毎日食べても大丈夫。
久しぶりにいい店を発見しました。
でも、今の所、いつもガラガラです。
いつまで持つかが心配ですが、多分なんとか持ちこたえるでしょう。
このクォリティでこのプライス。
よく頑張りました。